偉大なSF作家にして科学者、アーサー・C・クラークさんの「未来のプロフィル」 。未来予想を扱ったエッセイです。原書は1958年、日本語版は1966年に出版されています。
執筆当時の1958年はスプートニクショックの翌年。アポロの月着陸の約11年前です。未来を語った本が世界中で求められていたんじゃないでしょうか。本の中では空飛ぶ車や通信衛星など様々な未来の技術が予想されています。
昔、これを読んだ時、空飛ぶ車は荒唐無稽すぎてスルーしましたが、2021年のCESにGMが空飛ぶ車のコンセプトモデルを公開しています。やっと時代が追い付いたのかも。
本の最後には「未来の地図」という付録があり、未来の技術について簡単に書かれています。ただし、簡単に書かれすぎです。
たとえば、2000年の項目にあるのが「人工知能」「全地球図書館」。
「人工知能」は2010年代からブレイクしたので、ほぼ予想どおり。ただ、クラークさんは「2001年宇宙の旅」のHAL9000みたいなものを想定していたと思いますが、、、。
あと、「全地球図書館」は意味不明です。本編でこれについて言及しているページがありません。
手がかりを探すため、「未来のプロフィル」の原書「Profiles of the future」を読んでみました。昔だったら、原書を読むには大変な手間がかかりましたが、今だと一瞬で読むことができます。
Archive.orgにあるのは1958年版ではなく、1962年版とのこと。
ログインして「Borrow」ボタンを押すと、1時間だけ本を読むことができます。しかも無料。インターネットの図書館ですね。
「全地球図書館」ってまさにコレでは?!
原書によると、「人工知能」は「Artificial intelligence」。今現在の人工知能と同じつづりが使われていて驚きです。
「全地球図書館」は「Global library(世界的な図書館)」でした。、、、結局、よくわからないです。クラークさんお得意の通信衛星と組み合わせた技術だったかもしれません。
ちなみに1970年代に登場と予想されていた「燃料電池」は原書だと「Efficient electric storage(効率的な電気貯蔵)」。翻訳の結果、的中率が上がってしまったパターンかもしれません。
あと、1980年代に登場と予想されていた「トランシーバーの普及」は原書だと「Personal radio(パーソナル無線)」です。
書き方が2種類あって、原書の簡易版年表では「personal radio」じゃなくて、「personal radiophones」です。昔の電話は有線しかなかったので、わざわざ無線(radio)と書く必要があるわけですね。
本書に通信衛星を使った技術の一つとして出てくるのが「世界的通話システム」。その可能性については、次のように紹介しています。
まず考えられるのが、個人用受信機トランシーバーである。 だれもが、 腕時計同様に手がるに持ち歩きできる、 小型受信機だ。
(中略)この装置一つだけでも、その原始的な祖先である電話がすでにやってのけたのと同じくらい大きく社会と経済形態を変貌させるかもしれない。
(中略)
これが実現すれば、人が行方不明になるということがけしてなくなる。 現在のレーダー航路標識の原理に基づいたごく簡単位置方向探知装置が受信機と合わせ用いられ るようになるからである。そこで、危険や事故に遭遇したときは、 非常ボタンを一つ押すだけで救いを求めることができるようになるのだ。
(中略)
コミュニケーションの分野の進歩は、輸送の必要性を減少させるだろう。かつては何百万もの人間が都会の職場へ出かけるのに、毎日数時間も押し合いへし合いを演じなけ ればならなかったこと-そして職場は職場で遠隔通信の組織から疎外されると、しばしば手も足も出なくなったと聞かされても、われわれの孫たちはほとんど信じることさえできないだろう。
、、、トランシーバーというより、携帯電話ですね。1958年にこれを考えたのは凄いと思います。
通信技術の普及で交通量が減ると予想してたみたいですが、21世紀になっても渋滞もラッシュもありますし、まだ完全実現は難しいです。晩年のクラークさんはスリランカに移住したり、ワープロを導入したりと、いちはやくテレワークを実践していました。
なお、「未来の地図」には刺激的なフレーズが2100年まで書かれています。
あまり深読みすると、MMRのノストラダムスみたいなことになるので危険です。クラークさん自身も「本気で受け取られると困る」と最初に断りを入れてます。
興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。