なぜ、昔のパソコンゲームって、まともに語られていないのか?
アーケードゲームとか家庭用ゲームは懐かし系の本が定期的に出るのに対して、PCゲームの懐かし系の本はほとんどありません。資料がないのか、需要がないのか、はたまたライターがいないのか。先日、Kindleで「国産RPGの歴史」みたいな記事を読んだのですが、「ザナドゥ」がちゃんと紹介されてなかったのですよ。もう、そういうのに期待しないほうがいいのでしょうか。
最初期の国産RPGというと、思い付くのは「ドラゴンスレイヤー」「ハイドライド」「ブラックオニキス」です。すべて1984年の作品。さらに遡って、1983年の雑誌に「ぱのらま島(日本ファルコム)」「DUNGEON(光栄マイコンシステム)」の広告がありますけど、謎すぎてスルーされていたと思います。詳しい方に解説お任せします。
ドラゴンスレイヤーは「ウルティマIII」の影響があり、ハイドライドは「ドルアーガの塔」の影響があり、ブラックオニキスは「ウィザードリィ」の影響が見られます。そうなると「ドルアーガの塔」はかなりエポックメイキングな存在ですね。
当時のホビー系のパソコンはセットで20万円以上。のちに出たX68000だと50万円くらいに達してしまう。こうして、人を選んで選んで選びまくるのがパソコンゲームでした。MSXの登場で少しハードルが下がったかもしれません。
その後、「ゼルダの伝説」(1986年2月)や「ドラゴンクエスト」(1986年5月)がファミコンに発売されて、RPGは一般化していきます。ザナドゥの発売は1985年。まだパソコンゲームの天下だった時期に登場しています。
これは、X1用ザナドゥ テープ版のテープC。今から35年くらい前ですが、夢中で遊んでクリアしました。あの頃のプレイの真剣さは今の比ではありません。
テープAが起動用。テープCはユーザーテープです。テープBはユーザーテープのマスターです。テープCはブランクのカセットテープから作ります。レベル(マップ)を移動したり、装備を変えたりすると、テープCに読み書きを行います。X1に内蔵してるデータレコーダは「高速電磁メカカセット」と呼ばれていて、テープの頭出し機能がありました。それを使ってフロッピーディスクのランダムアクセスのような処理が可能でした。他にこの技術を駆使するソフトハウスはなかったと思います。なお、フロッピー版もテープ版と同じくA/B/Cに分かれています。
テープCには、マップに存在する敵の数とか、タワーに放置した宝箱とか、マトックで掘った穴とか。プレイ中の細かい情報が記録されます。電源を入れ直しても、遊んでいた世界がしっかり再現される。ザナドゥ特有の優れた技術です。
▲ベーマガ1986年2月号のザナドゥの広告。発売日をかなり過ぎてからの掲載です。
この時点でX1版、PC-8001mkIISR版、PC-8801版、PC-8801mkIISR版、PC-9801版が出揃ってます。後にFM-7版も出ましたし、技術力の高さがうかがえます。PC-9801の外付けドライブ用8インチフロッピーディスク版なんてのも出ました。ザナドゥが大ヒットした原因は対応機種の豊富さにあります。
1987年11月には、不可能だと思われていたMSXのカートリッジ版が発売されます。あのザナドゥが8KBのRAMで動いてしまう謎技術。現在、MSX版ザナドゥはiOS用のアプリ「PicoPico」でも遊ぶことができます。
この広告、横山宏さんのジオラマが載っていて、今だとなんのこっちゃ?だと思いますが、当時はログインで横山さんの作品が人気でした。「ログイン」がPCゲーム界において大きな影響力を持っていたという証拠です。
ザナドゥより前の日本ファルコムは、ベーマガに広告をほとんど出していません。それまで日本ファルコムはパッケージが妙に不気味で「技術力は高いが謎のソフトハウス」という印象。日本ファルコムはアップルII向けのパソコンショップがルーツであり、海外PCの情報を吸収できるという強みがありました。前作の「ドラゴンスレイヤー」はハイドライドより3か月ほど早くリリースしてます。
ザナドゥは1985年10月に発売されたらしいのですが、発売直後の情報はベーマガに載っていません。一応、1986年1月号(1985年12月売り)の通販ページでタイトルが確認できます。題名がザナドウ(ウが大きい)ですが。当時は「ハイドライドII」ばかり載っていました。ザナドゥは難易度が高く、やり込み前提のゲームでした。そのため、人気に火が付くまでにタイムラグがあります。ザナドゥの紹介記事(2ページ)がベーマガに初掲載されたのが1986年2月号です。
1986年4月27日に「チャレンジ!!パソコンAVG&RPG」が発売。この本にザナドゥの攻略方法が大々的に掲載されています。当時、ザナドゥに苦戦してた人たちが、この本に飛びつきました。ちなみに「パソコンサンデー」でザナドゥが特集されたのも1986年4月27日です。
ザナドゥのヒットで日本ファルコムが勢いづきます。ザナドゥ関連の公式資料集、ゲームブック、レコード/カセット/CD、コミックが発売されます。ゲームミュージックをオーケストラで演奏してレコード化するという発想は時代を先取りしています。
ベーマガに日本ファルコムの広告が大量に掲載され、矢継ぎ早にソフトがリリースされます。
「ザナドゥ」→「シナリオII」→「太陽の神殿アステカII」→「ロマンシア」→「イース」。ここまでの期間が約1年8か月。
イース以降も、ちょっとおかしいテンションが1988年初頭まで続きます。
現在、ザナドゥはプロジェクトEGGでWindows用ゲームとして配信しています(PC-8801版/FM-7版/MSX版)。この他に、1995年にPC-9801用にリメイクした「リバイバルザナドゥ」もあります。
自分はPC-8801版を購入してみました。FM音源が鳴っているのでmkIISR版ですね。お店のグラフィックがウルティマIIIっぽいので、初期バージョンです。
▲久しぶりにザナドゥを遊んでみました。
この2色だけの背景。3色だけのキャラ画像。容量削減と処理速度アップを狙った結果だと思いますが、洗練されていてカッコいいです。今でも安っぽくないと思います。
ちなみに名前を「HYDLIDE」にすると、体力が「0」のまま城から出てしまいます。本作は「ハイドライドII」はほぼ同時期に発売されただけあって、作者が猛烈にライバル視していたことがうかがえます。
▲LEVEL2に入ったあたりで、早くも詰みました。Key(鍵)やFood(食料)が買えない。敵を狩りつくしたのでGold(お金)が入らない。
ザナドゥってこんな感じのゲームだったと思い出しました。
最初からやり直しです。プロジェクトEGG版の場合、ユーザーディスクを作り直すには、「〜セーブ.DAT」ファイルを手動で削除します。今度はカリスマ(CHR)を上げて、買い物が有利に運ぶようにします。
なお、セーブは神々への献金ということでGoldを消費してしまいます。無料でセーブするにはゲートを通過すればOKです。
▲当時のPCゲームは8または16ピクセル単位で動いたり、画面更新が遅かったり、チカチカしたり、ビジュアルの悪さが当たり前でした。パソコンにとって、最も不得意なジャンルがアクションゲームです。
それに対して、ザナドゥの場合はヌルヌルと動く。キャラ画像のクオリティが高くて、左右反転も使ってません。これが、当時はすごくリアルに感じました。他とは違う「高級なゲームを遊んでる」という優越感がありました。
▲アクションがよくできてます。上の画面を見て、面白そうには見えないかもしれませんが、非常に面白いです。
敵に囲まれないように外側から攻撃するとか。接触しないように魔法で攻撃する(しかしアイテムが出なくなる)とか。敵の種類に合わせて魔法を使うとか。宝箱を障害物として使うとか。イースの半キャラずらしよりも繊細です。
あと、アイテムに毒が混ざってたりというトラップもある。プレイヤーが油断するとゲームオーバーになるように作られてます。
レベルアップすれば勝てるようになりますが、レベルアップするとFoodが減りやすくなり、鍵が値上がりするというデメリットもあります。
マップ上に同じ敵が出てくるのは4回まで。4回戦うと、マップから消滅する。敵は出現ごとに強くなる。所持するアイテム、移動の能力、魔法の耐性まで変わるという凝りよう。初戦は楽勝だったけど、2戦目以降で返り討ちにあうように計算されています。
ザナドゥの最大の特徴は、敵がマップから消滅するということ。敵が減り続けるゲームです。マップに存在するお金が限られているので、ムダな買い物はできません。得られる経験値も限られていますので、どうやって割り振るかも重要です。
敵が消えたら、次のマップに進むしかありません。レベル上げの単純作業がない反面、クリアするまでずっと苦戦する。厳しい制約で、プレイヤーをガチガチに縛ってしまうのが、このゲームの凄いところ。
長々と書きましたが、戦略性が高いゲームです。パズル的と言ってもいいかも。
▲LEVEL3に到着したあたりで、なにかおかしい、、、と思ったらカルマ(KRM)が「255」になってました。リセットして、やり直し。
ザナドゥってこんな感じのゲームでした(2度目)。殺したらダメな敵がいるので調べておく必要があります。
▲ ザナドゥは「熟練度」というパラメータがあって武器やアイテムは使うほど性能が上がります。
防具は攻撃を受けることで熟練度が上がります。適当な敵を見つけてわざと攻撃を食らいます。弱すぎる敵だと効果ありません。敵からダメージを受けた場合、そのダメージがだんだんと減っていきます。敵と接触する向きでもダメージが違う。
熟練度の上がり方が比例してないところが、よくできてます。
▲二段ジャンプで垂直に移動。これはゲームパッドだと無理なのでキーボードで操作します。
最初プレイした時は「こんなんできるか」とキレると思いますが、慣れてしまえばどうってことありません。
もし、今リメイクするなら、どうにかしてゲームパッドでも操作できるようにしたほうがいいですね。装備の変更も。
▲キーを押しっぱなしにすると、動きに勢いがついて余分にジャンプできます。理屈はよくわかりませんが、必須のテクニックです。シナリオIIではもっと高度なジャンプが要求されます。
この場面では、斜めキー押しっぱなしで一気に渡ります。
▲LEVEL7のマップ。一方通行なので降りるしかありません。
ここも仕組みがわかってしまえば、なんてことありません。慣れは恐ろしい。
▲LEVEL10に到着。横着してBlack Onyxでワープして来ましたが、タワーに入れません。この謎については、ベーマガ1986年7月号で回答しています。
元のLEVELに一気に戻るにはFire Crystalを使いますが、失敗するとレンガに埋まります。
▲緻密に作られているザナドゥですが、デカキャラとの戦闘に関しては大ざっぱです。レベルアップしてたら勝てるだけ。勝てるかどうかは、出会ってみないとわからない。デカキャラと戦闘する時、勝手にセーブされるので要注意です。下手をすると詰むという、酷な仕様です。
キングドラゴンとの戦闘だけは対策が必要です。
このデカキャラ、当時はこんなにデカくていいのかと思ったのですが、今だとそういう驚きはないですね。
▲終盤、寺院に行くと、ドラゴンスレイヤーを示す地図が表示されます。
テープ版だと、この画面はないので、見れて嬉しいです。地図にはあんまり意味がないですけど。
▲Dragon Slayerを入手。
改めて遊んでみると、Hourglass(時間停止)とDemons Ring(透明人間)が便利すぎますね。アイテムでゴリ押しできてしまいます。そこが良い点なわけですけど。
▲キングドラゴンと戦う前に下準備。
ザコと戦って熟練度を上げます。
▲いきなりキングドラゴン登場。倒したら、即エンディングです。
キングドラゴンをどうやって倒すのかが、このゲーム最大の謎です。自分の場合、学校で面識のない上級生から倒し方を教えてもらったのですが、何がきっかけでそうなったのかが思い出せません。
▲この、よくわからないエンディング。今でも意味がわかりません。
当時はクリア時のユーザーディスク/テープを日本ファルコムに送ると「認定証」がもらえました。それほどまでに真剣に遊んでいました。今でいう「トロフィー」とか「実績」ですね。
エンディングを見て、偉業を成し遂げたという気になりますが、実際はクリアできるように作られているわけで、やっぱりゲームバランスが優れてるなと思います。
▲蛇足ながらシナリオIIの話。
これが「シナリオII」です。マップが新しいだけじゃなくて、システム面も新しくなったザナドゥの追加コンテンツです。オリジナル版は前作がないと遊べないという仕様ですが、プロジェクトEGG版は単体で遊べます。
このシナリオIIは問題作。良くいえば、実験作でしょうか。
面白いとかつまんないとか以前に「変」です。お金がなくて困ったと思ったら、お金が余りまくり、鍵が安すぎ、開錠が単なる作業になったり、無駄に歩かせたり、敵が強すぎたり、弱すぎたり、変なところだらけです。
いきなりデカキャラとか、脈絡のないワープ、落ちたらトゲトゲとか、隠れカルマキャラとか、こういうのがゲームの「難しさ」ってことになっているのですが、単なるだまし討ちなので、遊んでいて納得できないです。アイテムショップに寄らないと詰むと思います。ユーザーディスクのバックアップは必須です。
結局、ザナドゥを名作にしていた理由はマップの作り込みだった、ということになります。
一応、シナリオIIの良いところを挙げておくと、こんな感じでしょうか。
- Ladder等のアイテムが増えた
- エンカウント時の音楽がなくなった
- Foodが大量に買えるようになった
- 熟練度のステータスが見やすくなった
- 古代サウンドがいっぱい聞ける
▲ちなみにカタログではこの通り。「初心者から上級者まで全員が楽しめる」、、、って、無理がありすぎます。
▲さらに蛇足ながらイースについても書いておきます。
「イース」に付属していたカタログのザナドゥ紹介です。ザナドゥのコミカライズがこの頃から始まり、世界観を軌道修正してます。
以前のザナドゥのキャッチコピーは「パソコン史上No.1 究極のR.P.G!」でしたが、イースの登場で「パソコン史上に名を残す名作」に変化しています。「No.1」が消し飛びました。
当時、ベーマガにはイースの広告が毎号掲載されました。広告のキャッチコピーが以下の通りです。
- 1987年6月号「新作を待ち焦がれていた全国37万人のファルコムファンに贈る!」
- 1987年7月号「幾重に織りなす謎の世界(イマージュ)」
- (1987年6月21日 イース発売)
- 1987年8月号「新世代ロールプレイング、ファルコムより誕生!」
- 1987年9月号「RPGは今、優しさの時代へ-」
- 1987年10月号~11月号「より難しければいい という危険な思い込み。」
- 1987年12月号~88年2月号「“より難しければいい”というのは危険な思い込みだ。今、RPGは優しさの時代への第一歩を踏み出した。」
日本ファルコムからユーザーへのメッセージ。回を重ねるごとに語気が強まってます。当時、イースの広告はページをめくると、ザナドゥ/シナリオII&ロマンシア&アステカIIの広告がありました。これら旧作品は「難しい」ことを誇っていました。
1988年2月号から、旧作品が広告から消えてしまいます。ザナドゥブームの終焉です。
ちょっと気になったのですが「37万人のファルコムファン」って数字はどこから来たのでしょうか。ザナドゥが40万本売れたという情報も裏付けが欲しいです。シナリオIIと合算なのか、そうじゃないのか。調べるための手掛かりがありません。
ザナドゥの広告が載らなくなった数か月後、ザナドゥのオリジナルビデオアニメが発売されています。果たして、アニメはどれくらい売れたのでしょうか。
以上で、ザナドゥについて書きたいことは書き終わりました。
ザナドゥの遺伝子が現在のゲームに受け継がれて欲しいです。今、こういうゲームって受け入れられるのでしょうか。「ダークソウル」とかがアリなら、これもアリな気がするのですが。