「ゼリアード for PC-8801」(ネタバレ)

プロジェクトEGGで配信している「ゼリアード for PC-8801(1987年)」を遊んでみました。正確にはPC-8801mkIISR用です。

作ったのは「テグザー」や「シルフィード」で有名な、あのゲームアーツ。カリスマを持つソフトハウスでした。

 

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ゼリアード

「ゼリアード」はアクションRPGメトロイドヴァニアと言ってもいいと思います。

画面は「ドラゴンバスター(1985年)」を連想しますが、内容的には「リンクの冒険(1987年)」が近いでしょうか。「イースIII(1989年)」が登場するのは、ずっとあとです。

今の感覚だと、フレームレートが足りなくて、動きがガクガクだと感じるかもしれませんが、当時としては最上級のクオリティです。アニメーションも豊富です。容量と処理の負担を減らすため、色数を削ったり画面サイズを小さくしたり、試行錯誤の跡がうかがえます。町の背景の重ね合わせ表示が技術的な注目ポイントです。

自分は「ゼリアード」をマイナー作品だと思っていたですが、実際は世界的に有名でした。DOS版を約26分でクリアするという動画がYouTube に上がっています。DOS版パッケージの改悪ぶりは、いかにも海外ゲームという感じ。死んだらお金がなくなりますが、銀行に預けておくと大丈夫っていう仕組みは「ホロウナイト」に受け継がれている気がします。

以下、内容のネタバレを含みます。エンディング画面も出てくるのでご注意ください。

 

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1体目のボス

ダイジェストで内容を紹介します。最初に戦うボスが洞窟界の巨大ガニ。これは下敷きにならないようすれば勝てます。

 

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2体目のボス

続いて、鍾乳洞界の巨大ダコ。スミをジャンプでかわして攻撃すると倒せます。

このへんまでは楽しく遊べます。あとは意地悪な仕掛けの連続で、ストレス度が青天井に上がっていきます。

 

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3体目のボス

樹木の世界のボス、巨大ニワトリ。ボスまで行くには「勇者の紋章」というアイテムが必要です。隠し場所は攻略の動画を知りましたが、そんなのわかるか!と逆ギレ。

ボスの攻撃パターンは突進か羽ミサイルかの2種類。突進を回避するタイミングがシビアすぎです。結局、石を使って倒しました。

 

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動く足場と滑る床

ゼリアード名物の「動く足場」。この足場をクリアまでに200~300回ほど乗り降りします。落ちたら最初からやり直し。もしくは死亡。これを延々と繰り返すので、心をベキベキに折られます。

氷の世界は地面が滑るので難易度倍増です。「ルゼリアの靴」を入手すると滑らないようになります。隠し場所が意地悪。

 

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4体目のボス

氷の世界のボス。しゃがんで剣を振っていれば勝てます。

 

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5体目のボス

腐った世界のボス。バラデューク的な不気味さ。この敵は「勇者の剣」じゃないと、上空での攻撃が当たりません。武器屋まで紋章を持って行って、剣をもらう必要があります。

ボスを倒すと、黄金の世界に移りますが、ドアに鍵がかかっていて、街に入れない。鍵を入手して、やっと入れたと思ったら、換金率が悪い。しかたないので、2つ前の銀行まで戻らないといけない。

 

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足場が見えない

掟破りの難所。足場が見えないので、足場の動きを予想して飛び降ります。ステートセーブでズルしました。

 

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6体目のボス

黄金の世界のボス。

ボスは球を転がしてくるので、ジャンプでかわして、足を攻撃します。ここに来るまでに「シルカーノの靴」を入手して、斜面を登れるようにします。靴の着脱が面倒です。

ボスを倒すと、炎の世界に移りますが、町でマントを買わないと体力をどんどん削られます。

 

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7体目のボス

本作、最大の難所。炎の世界のボス、ドラゴンです。

炎を浴びせられて、2秒くらいでゲームオーバーになります。時間的にも空間的にも余裕がなさすぎる。

結局、「明光の剣」と石とサブルリング、薬を3個、という装備で倒しました。明光の剣は34800ゴールドなので、5800アルマス。10アルマスを持つザコを580回ほど倒さないと買えません

 

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壁抜けのトリック

最終ステージ。

そんなのアリ!?と思うような無茶苦茶なトリックが5~6カ所あります。果たして、これをノーヒントで解決できるのか。

 

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8体目のボス

ラスボス一歩前のボス。ヒットしてるのか、ヒットしてないのかよくわからない状態で地道に剣を振ります。ちょっとの接触でプレイヤー側は大ダメージ。最強の盾は値段が高くて買えなかった。

ここで薬を残しておかないと、次のラスボス戦で詰みます。

 

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ラスボスとの対決

最後の敵。それほど強くないのですが、終盤はプレイヤーから逃げながら体力を回復します。ラスボスにあるまじきズルさ。死ぬ時にラスボスっぽいセリフを吐かずに黙って消えます。

 

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棒読みのお姫様

ラスボスを倒すと、お姫様が復活して喋ります。エンディングの曲は名曲ですね。

本作から感じたのは、アクション性の高さ、ビジュアルとサウンドの素晴らしさ、圧倒的な物量、そして、異常すぎる難易度です。プレイ中は死んで死んで死にまくって、本当にクリアできるのか?と思ってしまいました。「イース(1987年)」が謳った「優しさの時代」とは方向性が全く逆です。

密度と物量が他社と桁違いです。他のソフトハウスだったら分割して「ゼリアード1」「ゼリアード2」で売ると思います。これで採算が取れたのでしょうか。ゲームアーツ=超大作のイメージが強固なものになりました。

あまりに難しいので、動画でカンニングしましたが、それでも難しい。自分は遠い昔にX1turbo版を解いていますが、一体どうやって解いたのか。発売当時は雑誌の攻略記事が賑わっていたし、ゲームアーツに600円ぶんの切手を送ると、ヒントブックがもらえました。昔はアドベンチャーゲームで半年くらい悩んだりしたので、それくらい時間を費やすのが正しい遊び方かもしれません。驚くほどプレイヤーに優しくないんですが、昔のパソコンゲームってのはこういう世界です。

 

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宮路武さんと五代響さんの名前が

ゼリアードのスタッフクレジット。

サブプログラマーの中に宮路武さんと五代響(池田公平)さんのお名前があります。

実は今回プレイしたのは、このお名前を見るためでした。

 

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参考資料

手元にあるアスキーの蘇るシリーズを読み直してみました。以下は本の内容を切り貼りしただけなので、詳しい情報は本の実物をご覧ください。

蘇るPC-8801伝説 永久保存版(2006年)」に「ゲームアーツOBに直撃! 当時の秘話をお蔵出し! ゲームアーツ徹底研究」と題して、宮路さん兄弟と池田さんのインタビュー記事が8ページほど載っています。

同じくゲームアーツOBの大葉浩美(三橋正邦)さんと上坂哲さんは「みんながコレで燃えた! NEC8ビットパソコンPC-8001PC-6001永久保存版(2005年)」に登場します。

 

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シルフィード(1986年)」

パソコンゲーム界に衝撃を与えた「シルフィード」です。インタビューによると、「シルフィード」はプロトタイプまで含めて開発に3年を費やしたとのこと。ハードの陳腐化が激しい当時としては常識外れなことですが、ここまで作り込むのがゲームアーツらしさだと感じます。

上記のインタビューの最後の1ページは宮路洋一さんのインタビューです。掲載当時(2006年)、兄・洋一さんはゲームアーツの社長で、弟・武さんはジー・モードの社長でした。

セガサターンが現役の時代、ゲームがどんどん超大作化する中で、お金と人を集める方法が大きな問題となっていました。洋一さんの答えはESP(エンターテインメント・ソフトウェア・パブリッシング)を組織すること。ESPは長く続きませんでした。2000年を境にゲームアーツ=超大作の図式が崩れていったと思います。武さんは超大作を否定し、モバイルゲームの世界に進みました。

 

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「HARAKIRI」(プロジェクトEGGで配信中)

上記のインタビューでは宮路武さんは自身が手がけた「HARAKIRI」を気に入っていて「誰かもう少し洗練したニューバージョンを出してくれないかな」と発言しています。これが掲載された5年後(2011年)に宮路武さんはお亡くなりになっています。それからさらに6年後(2017年)、BEEPのイベントで池田公平さんが「HARAKIRI」の最新作を予告しています。

TECHNICAL ARTS | コンピュータソフトウェアの開発・販売 | プロダクト

 

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アスキー出版のAXシリーズ

1982年当時、アスキー出版は「AX」や「SX」と題したPC-6001用のソフトを発売しました。媒体は当然ながらカセットテープ。ソフトは東大マイコンクラブなどの面々が泊まり込みで開発しました。

同シリーズのソフトは書店で流通したり、NECが大量に買い取ることで、広く普及しました。ASCII別冊「PC6000 NOTE」の掲載作品「スターコマンドΣ」はテープ版も発売されました。「みんながコレで燃えた(略)」によると、これら一連の企画はアスキー第二出版部部長だった松田充弘さんによるものだそうです。のちに松田充弘さんはゲームアーツの社長になります(さらに会長に就任)。ゼリアードのエンディングにはプロデューサーの「Mitsuhiro Mazda」と表記されています。ちなみにX1turbo版ゼリアードは隠し機能で「ゲームのコピーをやめましょう」という主旨の松田さんのメッセージが表示されます。

 

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AX -5収録の「クエスト(1982年)」

AX-5収録の「エス」。ぬるぬる動く3D迷路が衝撃でした。「Hiromi」というのが大葉浩美(三橋正邦)さんのこと。読みにくいですが、松田充弘さんのお名前も確認できます。

三橋さんはのちに「シルフィード」の合成音声プログラム(ザカリテの声も)を担当しています。この合成音声の機能はゼリアードでも使っているんじゃないでしょうか。

シルフィード」のオープニング曲はもの凄い名曲だと思うのですが、これも三橋さんの作曲によるものです。凄まじい活躍ぶり。

 

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AX-7収録の「ポリス&ギャング(1982年)」

AX-7の「ポリス&ギャング」と「ゴッドハリケーン」を池田さんが作られていて、「ザ・アステロディアン」を宮路武さんが作られています。先のインタビューの両名です。「ポリス&ギャング」と「ゴッドハリケーン」は「みんながコレで燃えた(略)」に収録されています。

 

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「SX-2 ドイツアフリカ装甲軍団(1982年)」

「SX-2 ドイツアフリカ装甲軍団」というシミュレーションゲームです。宮路武さんがゲームデザイン、宮路洋一さんがプログラムを担当しています。この時代においての超大作です。「HARAKIRI」のルーツもこれだと思います。「みんながコレで燃えた(略)」の収録バージョンは著作権料の配慮でリリー・マルレーンが鳴りません。

この作品は説明書が約30ページに及んでいて、最後のページに「ヒストリカルリサーチ」という肩書きでゲームアーツの内田敏幸さんのお名前があります。Wii用の大乱闘スマッシュブラザーズX(2008年)」は主にゲームアーツが開発していて、スタッフクレジットには内田敏幸さんと宮路洋一さんのお名前があります。スマブラXは約700人のスタッフが名を連ねています。現代の超大作です。

 

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テセウス(1984年)」

テグザー」の元ネタの一つ、アスキーの「テセウス1984年)」。作者は三橋正邦(大葉浩美)さん、滝口彰(竹内あきら)さん、h.godai(五代響=池田公平)さん、コミネマオさんの計4名です。

テセウス」はピクセル単位で全方向スクロールするというMSXでは不可能な離れ業をやってのけているのですが、その動作原理を「MSX Magazine永久保存版」で三橋さんが解説しています。

 

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「GAME BASIC for SEGASATURN(1998年)」に収録のテセウス

セガサターン用のプログラミング環境「GAME BASIC for SEGASATURN(1998年)」にサンプルとして「テセウス」が収録されています。作者はオリジナルの「テセウス」を手掛けた三橋正邦さんです。

でべろマガジン Vol.1(1996年)」「Vol.2(1997年)」によると、このサターン用BASICはESPと徳間書店インターメディアから「BASIC for SEGA SATURN」という名前で1997年3月に発売予定でした。初期のプロデューサーは宮路洋一さんでした。理由は不明ですが、一年以上遅れて、微妙に名前を変えた状態でアスキーから発売されました。

 

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GAME BASICでゲームアーツの名曲が聞ける

GAME BASIC for SEGASATURN」に収録されているサンプルの一つがこのゲームアーツ名曲集です。「ゼリアード」の曲もしっかり収録されています

長々と書きましたが、これでゲームアーツの出発点がアスキーであることと、ゲームアーツのコンテンツがアスキーから発売されたということを確認できました。お互いの絆の深さがうかがえます。

 

ゲームアーツ関連

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