MSXを作れ!!

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MSXを作れ!!」

MSXを作れ!!」(2015年)というKindle本を買ってみました。 自分はMSXパソコンを持ってないニワカですが。

本の目玉はビクターとヤマハMSXパソコンを開発した時のエピソード。エイプリルフールとオフ会とクイズは、どうでもいいですね。「マイクロソフト戦記」を引用してるだけのページは手抜きな気が、、、。

読んでいて「何かおかしい」と思ったら、本の内容が週刊アスキーの記事とまったく同じでした。これ、買わなくて良かったのでは。

この本って、文体がふざけてるというか、同人っぽいノリが引っかかります。一体どなたが書いているんでしょうか? 著者名「MSXアソシエーション」?

旧公式サイト(MSX ASSOCIATION)によると、「MSXアソシエーション」とはMSX公式エミュレータを作ったり、権利者と交渉する団体とのこと。ユーザーズグループではないみたいですね。MSXアソシエーションは過去にコナミMSXソフトのマニュアルを集めてましたが、Wii UMSXソフトに資料を活用したのかもしれません。

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Wii Uで遊べるスペースマンボウ(連射機能が欲しい!)

ちなみにWii Uの「スペースマンボウ(MSX2)」は絵も音も文句なしです。ですが、オート連射が欲しかった。開発はおそらくD4エンタープライズですね。D4エンタープライズPROJECT EGGで長年の実績があります。

今、MSXアソシエーションもMSXライセンシングコーポレーションもWebサイトがありません。窓口がないのに、どうやって交渉するのでしょうか。

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MSX Magazine永久保存版(2002年12月発売)

久々に本棚から「MSX MAGAZINE 永久保存版」(2002年12月発売)を引っ張り出してみました。この本の奥付にはMSXアソシエーションの12人のお名前が掲載されています。名前でググったら、いろいろ発見がありましたが、迷惑をかけそうなので触れずにおきます。

この本によると、

・1999年1月に西和彦さんがMSXのユーザーグループと会見

・2000年10月にMSXの公式エミュレータMSXPLAYer)の開発がスタート

・2002年2月にMSXアソシエーション設立

(1chipMSXの具体的な内容は「永久保存版3」まで載りません。)

という流れだそうです。この一連の活動を「MSXリバイバルプロジェクト」と呼ぶみたいです。最も難しい権利関係の問題を西さんがビル・ゲイツに直接話すことでクリアしたというのがドラマチックです。

MSX衰退&復活の歴史は古いです。「バックアップ活用テクニックPART25(1991年12月号)」の107ページ目には次のような記述があります。

MSXサークルの方々、MSXがこのまま衰退しないために一致団結して、MSX復活プロジェクト(略してMFP)を組みませんか?

これを書いた人は、誌面を私物化してMFPの宣伝を繰り返しました。その後、MFPは事業化され、雑誌「MSX・FAN1995年8月号」にMSX用ハードの広告を掲載。結果、商業的には失敗したようです。、、、思い切り脱線しました。念のためですが、MSXリバイバルプロジェクトはMSX復活プロジェクトとは別物です。

MSXリバイバルプロジェクト」のページは2001年2月公開ですね。ページは現在も見ることができます。このページを見て思ったのですが、、、まず「日本MSXユーザーグループ」とは何か? メンバー構成は? リーダーは? 同人の活動なのか? 主導権はアスキー? 報酬は発生していたのか? 2001年で更新が止まったのはなぜか?  いろいろと疑問が尽きないです。議事録が匿名で、無責任なことになってます。

MSXPLAYerはフリーのエミュレータである「fMSX」のソースコードを使っていますが、2002年2月の時点で作者のMaratさんから「盗作」呼ばわりされていました。本には「正式に許諾を得て」と書かれているので、問題はクリアできていると思います。intentを採用したのも謎ですね。intent版はWindows10で動かないので、永久保存版1のCD-ROMを持っているのに全てのゲームが遊べません。なんという生殺し。永久保存版3でintent不要のネイティブ版になったことを考えると、最初から「fMSX」そのままでよかったのでは。当然ながら、今現在、サポートは望めません。

同人のノリで商売すると危険ですね。これは自分にも言えるので、偉そうなこと言えません。肝に銘じておきたいです。

あと、「MSX Magazine永久保存版」には西さんのインタビューが4ページ載っています。2ちゃんねるのオフ会(2001年8月)では公式エミュレータオープンソースにするとか無償配布するという刺激的な発言があったのですが、計画が流れたのか、そういう情報も書かれていません。

2009年の中村伊智哉教授の記事によると、2001年に西さんと中村教授らはMITのメディアラボで教育用コンピュータを作る計画のプレゼンを行ったとのことです(http://www.ichiya.org/jpn/NikkeiNet/nikkeinet_090525_vol58.pdf)。このプレゼンにはMSXリバイバルプロジェクトのメンバーも一部参加していますので、西さんの目標はMSXで教育用コンピュータを作ることだったと考えられます。アスキーの問い合わせ先が「教育プロジェクト」だった理由はこれでは? 中村教授は、2005年にMITが発表した「100ドルPCプロジェクト」は自分たちの発表が元ネタだと主張しています。発表からのタイムラグがあるので、これは話半分ですね。100ドルPCプロジェクトは途絶えてしまいましたが、ラズベリーパイ財団が2020年に発売した「Raspberry Pi 400(値段が100ドル)」がその意思を受け継いでいるように思えます。そして、西さんが発表予定の「次世代MSXですが、発言から察するにラズパイを意識しているようです。

ちなみに2003年ごろ、西さんの会社でMSXを教材にするという試みが行われました(MSX-BASIC for Education)。これはWindowsMSXを動かすだけなので、導入のメリットがないように思えます。1chipMSXで実現したら流行ったかもしれません。

1chipMSXは2005年にアスキー「5000台の予約を達成したら商品化する」という謎ルールを提示しますが、注文が目標に届かず、計画が一旦終了します。2万円近いのに、MSX1相当でスロット1個ってスペックが足を引っ張ってますが、一気に5000台売ろうというのはハードル高すぎな気が。そもそも売れないからMSXは衰退したわけで。

その後、1chipMSXの計画をD4エンタープライズが引き継ぎます。値段ほぼそのままで、スペックを引き上げて(MSX2相当、2スロット)、2006年に販売されます。ここに開発陣のもの凄いドラマを感じます。Kindle本の次回作は「1chipMSXを作れ!!」でお願いしたいです。

今、教育界における大きなバブルが、政府主導のGIGAスクール構想です。学校で1人1台端末(パソコン/タブレット)を推進すべく、生徒1人あたり4.5万円の助成金を支給するそうです。20年経って西さんの発想に時代が追い付いた。しかし、今現在、1chipMSXは購入できませんし、4.5万円という金額を考えるとタブレットが一番妥当に思えます。

余談ですが、2020年にスペインのVIKALB PROGRAMMING社が「MSXVR Computer」というMSXパソコンを発売しました。これは中身がラズパイで、つまりMSXエミュですね。Hal研のPasocomMiniもラズパイですし、やはり、ラズパイはソリューションとして優れているなと実感します。ラズパイはハードのスペックが優れているだけではなく、流通も生産力も優れてて、結局、組織が優れているわけです。

このスペイン製MSXは初回ロットが2021年になってやっと発送されたようです。安定供給が難しく、次のロットは遅れるらしいです。どういうわけかスペインではMSXが盛り上がっていて、ほぼ毎年MSXDEVというイベントが開催されています。気になる方は「Spanish msx homebrew」とかで検索してみましょう。知らぬ間に海の向こうでMSXが復活してました。